『歌は待っている 風と土と「ひとひのうた」と』
​刊行記念イベント「夏のうたげ、東京」
​2025/8/16(sat),17(sun)

小金沢智編著『歌は待っている 風と土と「ひとひのうた」と』刊行記念イベント
​「夏のうたげ、東京」
会期:2025年8月16日(土)12時−20時、17日(日)11時−17時
観覧:無料[投げ銭制]/予約不要

——————————
夏のうたげ、東京

ここ=iwao gallery(東京都台東区蔵前)は、磯辺加代子さんが2019年11月にオープンしたギャラリーです。その名称は、亡くなられたお父さまの名前「巖」(いわお)から。もともとは、創業97年、三代続く玩具問屋の倉庫だったと聞きます。

はじめて僕が訪れたのは、2022年2月、詩人の管啓次郎さんと写真家の吉江淳さんの展覧会のときでした。年末に父を亡くしたばかりの僕は、父の葬儀の1日を吉江さんに写していただいた写真集を制作中で、見本を持って展覧会の朗読会を訪ねたのでした。すると、磯辺さんは、僕が発表するつもりもなく私家版として制作していた写真集『flows』に興味を持たれ、よかったらここで写真集を見る機会をつくりませんかと提案してくださったのです。後日、「『flows』を見る/読む」と題して行った2022年8月19日、20日の企画は、イベント(トーク:小金沢智、平野篤史、吉江淳、ライブ:前野健太)も含め、僕にとって忘れ難い時間になりました。
あれから三年が経ち、iwao galleryで再びこのような機会をいただきました。「夏のうたげ、東京」は、僕が五月に発売した編著『歌は待っている 風と土と「ひとひのうた」と』(モ・クシュラ)の刊行記念イベントとして、「うたげ」をテーマに、展示、トーク、販売を行う場です。

東北芸術工科大学主催の「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2024」(蔵王温泉、東北芸術工科大学)で行った、周遊型展覧会「ひとひのうた」のドキュメントとして制作をはじめたこの本は、次第に、「うた」を大きな柱とする一冊になっていきました。そして、今回のイベントの名称に掲げている「うたげ」とは、詩人、評論家の大岡信の『うたげと孤心』(1978年)から。大岡は『うたげと孤心』で、優れた作品が生まれるためには、さまざまな分野の創作が同時に行われる「うたげ」の場と、作家の徹底的な「孤心」が必要なのだと述べています。僕は、この二重性に強く惹かれました。今回の機会は、本からの展開として、「うたげ」という場を僕なりにつくってみることにほかなりません。

空間には、吉江淳さんによる本の表紙に使わせていただいた写真《蔵王02》(2024年)、岡安賢一さん撮影・編集による「ひとひのうた」記録映像、出品作家の一人であった大和由佳さんの蔵王の土地の記憶にふれる作品《VINELAND -1/10,000模型》(2024年)の蔵前バージョン。そして、蔵王温泉の南無阿弥陀仏碑をモチーフに、岡澤慶秀さんの本書のための作字をともなった、岡本健+さんの表紙のデザインが(南無阿弥陀仏碑の原寸大で)皆さまをお迎えします。僕は、前野健太さん命名による「展覧歌」(てんらんか)の二作目として、この蔵前という場所のこと、ここで生きている人、生きていた人たちのことなどを想像しながら、「蔵前」をつくりました。そして、2日間、たくさんのゲストの皆さまと、僕がホストとなって、いろいろなお話をさせていただきます。ぜひ、お越しの方も、よろしかったら混ざってください。

初日は、生者と死者が再び出合う、お盆の最終日(8月16日)。流れゆく時間のいっときを、ここにいる皆さまと過ごすことができたらと思い、あちらとこちらのきわ——隅田川の気配を漂わせるiwao galleryで、皆さまのご来場を待っています。

小金沢智(キュレーター/東北芸術工科大学准教授)
——————————

《展示》
山形ビエンナーレ2024の周遊型展覧会「ひとひのうた」、『歌は待っている 風と土と「ひとひのうた」と』、そして「夏のうたげ、東京」にまつわる作品を展示します。
小金沢智(キュレーター)、岡本健+(デザイナー)+岡澤慶秀(書体デザイナー)、岡安賢一(ビデオグラファー)、大和由佳(アーティスト)、吉江淳(写真家)

《トーク》
2日間、10名のゲストをお迎えし、小金沢とのトークを行います。ご予約不要、聴講無料(投げ銭制)です。ただ、会場では展示も同時に行われており、ご用意する椅子には限りがあります。いっぱいの場合は、お譲りあってご覧ください。また、両日ともに写真・映像による撮影を行なっていますのでご了承ください。
8月16日(土)
13時〜13時30分:岡本健+(デザイナー)
14時〜14時30分:杉本克哉(美術家)
15時〜15時30分:伊藤紺(歌人)
16時〜16時30分:山本桂輔(美術家)
17時〜17時30分:青柳菜摘(アーティスト、詩人)
18時〜18時30分:管啓次郎(詩人、明治大学総合芸術系教授)
8月17日(日)
13時〜13時30分:岡安賢一(ビデオグラファー)
14時〜14時30分:塚本麻莉(高知県立美術館学芸員)
15時〜15時30分:熊谷新子(編集者)
16時〜16時30分:大和由佳(アーティスト)

◉岡本健+(おかもと・つよし ぷらす)
エディトリアルデザイナー。1965年、大阪市生まれ。大阪市立工芸高校図案科を卒業後、日下潤一氏のBグラフィックスにお世話になる。半年でドロップアウトし、上京。音楽系のデザイン事務所などを経て、1994~2002年まで中垣デザイン事務所勤務。2005年、有限会社岡本健事務所を設立。多岐にわたるジャンルでエディトリアルデザインを中心にグラフィックデザイナーとして活動。

◉杉本克哉(すぎもと・かつや)
美術家。1984年、栃木県生まれ。2011年、東京藝術大学大学院美術研究科芸術学専攻修了。
2013年、「フィナーレ選抜奨励展 -輝く12の視座-」損保ジャパン東郷青児美術館。2013年、個展「 みえる、みえない、みる、みない」Frantic Gallery。2021年 、個展「YOU ARE GOD」hpgrp GALLERY TOKYO。2022年、個展「差異」NOHGA HOTEL UENO TOKYO / 3331 Arts Chiyoda。2023年、「パラレルモダンワークショップ|これは富士山である:登拝篇・遥拝篇」参加。2024年、個展「YOU ARE GOD -Drop in the box-」LOKO GALLERY。

◉伊藤紺(いとう・こん)
歌人。1993年生まれ。歌集に『気がする朝』(ナナロク社)、『肌に流れる透明な気持ち』、『満ちる腕』(ともに短歌研究社)。“リレー”のように交互に作品を制作する、デザイナー・田あすかとの展示作品「Relay」、土地を歩き土地に短歌を書き下ろした「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2024」への出展、写真作品に短歌を書き下ろした上白石萌歌の写真展「かぜとわたしはうつろう」のほか、ファッションビルとのコラボレーションなど活躍の場を広げる。

◉山本桂輔(やまもと・けいすけ)
美術家、女子美術大学立体アート専攻准教授。1979年、東京生まれ。東京造形大学彫刻専攻卒業、東京藝術大学大学院彫刻専攻修了。東北芸術工科大学専任講師を経て現職。他愛のない日常や、夢想といった個のもつ抽象的な繊細さを出発点とし、特別な空ではなく、無名の土壌に埋まった無意識や自然性をいかに掘りだすかを考えながら、彫刻や絵画を制作している。小山登美夫ギャラリーを拠点に、国内外で個展やグループ展に多数参加。

◉青柳菜摘(あおやぎ・なつみ)
アーティスト、詩人。映像メディアを用いた同時代芸術のアーティストとして、フィールドワークやリサーチをもとに、プロジェクトベースに主題を立て作品を発表している。近年の活動に個展「亡船記」(2022)、「ICC アニュアル 2024 とても近い遠さ」展(2024)など。詩集『そだつのをやめる』(2022)が第28回中原中也賞受賞。コ本や honkbooks主宰。

◉管啓次郎(すが・けいじろう)
詩人、批評家。明治大学<総合芸術系>教授。1958年生まれ。身体と想像力の中に流れこむ地水火風の自然力を主題として創作と研究をつづけてきた。ヒトと動植物菌類鉱物との関係をいかに捉え言語化するか。環境破壊がここまで進んだ以上、ニンゲンの自己収縮こそ喫緊の課題だと考えている。最近の著書に『エレメンタル 批評文集』(左右社)、『ヘテロトピア集』(コトニ社)など。

◉岡安賢一(おかやす・けんいち)
ビデオグラファー。群馬県中之条町生まれ、日本映画学校卒。国際芸術祭中之条ビエンナーレでは、オープニング映像制作や全アート作品・全イベントの映像によるアーカイブを担当。ほか、アーツ前橋、太田市美術館・図書館、原美術館ARCの映像制作に関わる。小金沢智氏と共に谷保玲奈氏、山本直彰氏、大小島真木氏の映像を制作する。山形ビエンナーレ2024「ひとひのうた」の映像記録を担当した。中之条町の「伊参スタジオ映画祭」実行委員長。

◉塚本麻莉(つかもと・まり)
高知県立美術館学芸員。2014年、東京藝術大学大学院美術研究科文化財保存学専攻修了。2016年より現職。保存修復の知識を背景に、「残すべきものは何か」を問いつつ、会場ごとの地域性や特性をいかしたキュレーションを行う。高知県立美術館では、2020年に高知ゆかりの作家を紹介する個展シリーズ「ARTIST FOCUS」を立ち上げたほか、2022年に同県出身の美術家・合田佐和子の回顧展を企画。美術館外の企画にも積極的に取り組み、若手・中堅作家の自主企画展を多数手がける。

◉熊谷新子(くまがい・しんこ)
編集者。1974年秋田県生まれ。出版社リトルモアで文芸、写真、絵本、デザイン、アート、料理等の分野を手掛けた。2008年〜11年、文芸誌『真夜中』編集長をつとめた。展覧会と連動した企画も多い。2020年に帰郷しNPO法人アーツセンターあきたに所属。秋田市文化創造館でトークイベント・ワークショップの企画、インタビュー記事等の編集・執筆を担う。2022年7月より2年間『秋田魁新報』にて月1度の「ハラカラ」面を企画編集・執筆した。

◉大和由佳(やまと・ゆか)
アーティスト。1978年愛知県生まれ。関東在住。歩行、呼吸、睡眠、発話、食事、洗濯など、人間の生命や生活の基本となるような営みに関心を寄せ、映像、インスタレーション、パフォーマンス、写真などで表現している。
https://yamatoyuka.com/

◉小金沢智(こがねざわ・さとし)
キュレーター/東北芸術工科大学芸術学部美術科日本画コース准教授、美術館大学センター研究員。1982年、群馬県生まれ。専門は日本近現代美術史、キュレーション。世田谷美術館、太田市美術館・図書館の学芸員を経て現職。「現在」の表現をベースに据えながら、ジャンルや歴史を横断するキュレーションによって、表現の生まれる土地や時代を展覧会という場を通して視覚化することを試みている。

《販売》
小金沢智編著『歌は待っている 風と土と「ひとひのうた」と』(モ・クシュラ、2025年)を販売いたします。
​1冊:6,000円(税別)
詳細 www.koganezawasatoshi.com/uta.html
購入 koganezawa.base.shop/items/108267695

企画:小金沢智
協力:磯辺加代子(iwao gallery)、大谷薫子(モ・クシュラ)、岡本健+(岡本健事務所)